「え? あれ……?」
何が起こったのかわからず、春斗は動揺している。宮瀬にいたっては瞬きひとつせずに固まっていた。
「ぬ、抜けちゃった?」
ウサギ頭を持ったまま、春斗は助けを求めるように宮瀬へと視線をやる。すると、宮瀬は口元を押さえ、笑い始めた。止まっていた時間が流れ出す。
「よかったじゃないか。いろいろ解決して……?」
私の顔を見た瞬間、宮瀬が口を閉じた。
春斗も呆然とこちらを見ている。
気がつくと、私は泣いていた。温かい涙が頬を伝い、あご先からしずくとなってズボンや床へと落ちる。他人事のように眺めていると、一気に顔が熱くなっていくのが分かった。
自分の意思とは反対に、目からは次々に涙があふれてくる。正直、この歳になって泣くことになるとは思わなかった。
「すまない。ちょっと……」
伸びきった袖で涙を拭いていると、春斗がティッシュを持ってくる。
そのティッシュを受け取り、涙と一緒に鼻をかむ。しかし、あふれ出る液体に一枚では足りなくなってしまう。
「え、どうしよう。大丈夫ですか?」
「ゴミ箱、ゴミ箱はどこだ?」
春斗と宮瀬が同時にばたばたと動き出す。
台所からゴミ箱を持ってきた春斗は、私の顔を覗き込む。
「はい。どうぞ」
そのまっすぐな瞳に、私はまたどこかへ閉じこもってしまいたくなった。