翌日は激しい筋肉痛に襲われた。だが家で寝ているとお爺さんに冷たい眼差しを向けられる。お婆さんの容赦ない口撃が止まらない。桃太郎は痛む下半身を引きずって、パラダイスジムへ行った。エレベーターで2階へ進み、トレーニングルームには行かずにジャグジールームへ行ってサウナに入った。サウナには大画面のテレビがある。
「テレビ見ながらサウナで汗かいて楽に痩せられるぜ!」
ワイドショーでは大々的に一寸法師と異国の姫との結婚が報じられていた。桃太郎は舌打ちをした。
「なんだよ、こっちは鬼退治しても彼女も嫁も出来なかったぞ!」
憤りの為、桃太郎の頭から湯気が噴出した。サウナの温度が更に1度上昇した。桃太郎はサウナを出て、冷水を浴び、ウエアに着替えて、トレーニングルームに向かった。勇者なので本気を出せば筋肉痛も克服できるのである。トレーニングルームでは平さんがおばさんたちに囲まれていた。今日も若い女の子は一人もいない。
「平さんの腕にぶらさがりたーい!」
「平さん!お姫様抱っこして!」
「次は私の番よ!おんぶして!」
大騒ぎである。平さんは白い歯をきらきらと輝かせて、おばさんのリクエストに次々と応えた。桃太郎はその様子を遠巻きに眺めながら、ランニングマシンへ向かった。イヤホンをつけテレビモニタのスイッチをつけた。今日も大音量だ。
「何だよ!音量設定35って。音でか過ぎだろ」
音量を下げ集中しながらしばらく走っていると、おばさんたちに解放された平さんが爽やかに桃太郎のもとへやって来た。
「お疲れ様っす」
「お疲れ様。あのさ、ここのテレビモニタの音量大きくない?」
「お年寄りの会員様が多いっすから。耳が遠いんすよ」
「そういや、さっきまでおばさんたちに囲まれていたね」
「毎日っす。皆さん元気いっぱいっす」
「あのおばさんたち、今はどこに行ったの?」
「皆さんエアロビクスルームで有酸素運動プログラムを受けていますね。桃太郎さんもランニングだけだとその内飽きるから、レッスン出るといいっすよ」
「ところでさ、このジム、おばさんばっかりじゃない?若い人いないの?」
「昼間は若い人あんまりいないっすね。この時間はおばさんばっかりっす。午後になるとお爺さんとかおじさんが増えます。若い人は夕方以降に来ますよ」