僕は勝手に山を作っていく蟻ロボットに感動していたが、ふと疑問に思ったことを聞いた。
「この蟻ロボットは何の役にたつの?」
それを聞いたおジイさんは、「ハハッ」と軽く笑い、「何の役に立つかな?」と逆に僕に聞き返してきた。僕は質問を質問で返すなんてずるいよ、と思いつつも、うーんと頭をひねった。そして、僕は、「子供たちを楽しませるのに役立つよ!」と言った。
おジイさんは、「ハハハッ!」とさっきよりもよっぽど大きな声で笑い、「それは素晴らしいことだ」と言った。そして、少し考えてから、僕の顔をしっかり見て付け加えた。
「役に立っているかどうか、すぐにわからないことも一杯あるんだよ」
僕は、僕の答えが正解だったのかどうかわからず、何だかモヤモヤした気持ちのまま、「ふーん」と頷いた。
そのときだ。
僕たちの後方から冷たい声が聞こえた。
「またツマラナイものを作ったんですかな?いや、もしかしたら国を揺るがす大発明ですかな?」
僕が振り向くと、5mぐらい離れたところに警察の服を着た人が二人、冷たい視線を僕らに浴びせながら立っていた。一人は小柄な太った男で、もう一人は痩せた背の高い男だった。偉そうに話しかけてきたのは、太った男の方だ。僕たちが蟻ロボットに夢中になっているうちに、ここまで近づいてきたようだった。おジイさんは、警察の人に振り向きもせず、黙って蟻ロボットを見つめていた。僕は、その場に張り詰めた冷たい空気を感じ、身構えた。
「ちょっと、署までご同行願えませんかね?」と太った男が続けた。
おジイさんは、警察の二人に振り向くと、「ああっ、構いませんよ」と何事もないように言った。
痩せた男は、ズカズカと僕らの方に近づき、蟻ロボットを見つけると、「これは何だ?」と偉そうに聞いてきた。僕が、「蟻ロボットだよ。自分たちで協力して山を作るんだ・・・」とすかさず答えると、痩せた男は僕を睨み、顔を近づけながら「蟻ロボットだとぉー・・・、山を作るだとぉー・・・」と鬼のような形相で僕を睨んだ。僕は、ビックリし、その場で体を動かすことができなくなった。
「その子は関係ないんだ。怯えさせるようことはしないくれ!」とおジイさんは、いつになく強い口調で痩せた男に言った。痩せた男は、今度はおジイさんを睨みつけると、「ケッ!」と言って、蟻ロボットと蟻ロボットが作った山を蹴り飛ばした。
その瞬間、僕は「あっ・・・」と思わず声を出した。おジイさんが折角作った蟻ロボットと蟻ロボットが健気に作り出した山が無残に砕け散った姿を見て、僕はとても悲しい気持ちになった。僕がおジイさんの方に悲しそうな顔を向けると、おジイさんは、「いいんだよ・・・気にしなくていいよ」と微笑んでくれた。