小説

『変人老科学者の計画』十六夜博士(『旅人とプラタナス』)

「何の役にも立たない土の山を作る蟻ロボットとは・・・相変わらず、役に立たない科学者ですな。それともそれは、我々を騙す仮の姿ですかな。」と、太った男は皮肉たっぷりな笑いを顔に浮かべ言った。
「さあ、行こう」
 そんな皮肉を気にする様子もなく、おジイさんは、強い口調で警察の二人に宣言すると、一人でサッサと家の方に歩いて行った。突然動き出したおジイさんに逃げられまいと、二人の警官がおジイさんを追いかけた。僕は、体がいまだに動かない状態で、遠のいていく三人を呆然と見送っていた。だけど、何かおジイさんと永遠に会えなくなるような気がして、僕は居ても立っても居られなくなり、その場で叫んだ。
「おジイさーんっ!」
 その声が届くと、もう小さくなったおジイさんは、僕の方に振り返った。そして、手を上げた。その手がバイバイを意味するように小さく揺れた。小さくて完全にはわからなかったが、たぶん、おジイさんは、笑っていたと思う。警察の二人は、僕の方を振り返りもしなかった。僕はおジイさんが見えなくなってからも、しばらくそこに呆然と立ち尽くしていた。

 カサコソ、カサコソ・・・
 僕は妙な物音に気付いた。その音は、しばらく前から僕の耳に入ってきていたはずだが、半ば放心状態の僕は気付かなかったようだ。音がする足元の方を見ると、蟻ロボットたちが、何事もなかったように動き回っていた。そして、痩せた男に蹴られた山とは別のところにまたひとつ山を作っていた。
 (この蟻ロボットは、太陽エネルギーさえあれば無限に動き続けられるんだ。どうだい?すごくないかい?)
 僕はおジイさんの言葉を思い出していた。

 その日、僕は家に帰ると、お父さんに事の顛末を話した。僕の話を聞くお父さんは、最初迷ったような顔をして無言で僕の話に耳を傾けていた。そして、僕の話を聞き終わると、「もう、12歳ならわかるよな・・・」と僕に言い聞かすというより、自分に言い聞かすように、いろいろと説明してくれた。

 22XX年の今日、地球は人類の活動によって、持続不可能な世界になったんだ。年々、緑地が無くなり、食料の生産量も落ちているんだ。様々な科学技術により、食料の増産も試みられているけど、全く追いつかないんだ・・・
その結果、人類は何を選択したと思う?
 悲しいことだけど、戦争を選択したんだ。隣の国の食料や土地を奪えば、自分たちは生きていけるって話だよ。だから、今日も地球上のあちこちで戦争をやっている。昔は戦争というと人間が兵士として戦ったが、今はロボットが勝手に戦ってくれる。だから、科学技術が高いか低いかで勝負が決まるんだ。我々の国の科学技術は世界でもトップレベルなのは知っているね。だから、我々の国はいつも戦争に勝っている。

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