小説

『変人老科学者の計画』十六夜博士(『旅人とプラタナス』)

 おジイさんは工房の外に出ると、家の前に広がる荒野へと向かった。おジイさんの家は村の外れにあるって言ったけど、村の外は草木も生えない荒野となっていて、おジイさんの家は、その荒野の手前にある。荒野の手前といっても、若干雑草が生えているだけで、おジイさんの家も荒野に立っているようなものだ。村の人たちが住んでいる、緑がある場所は、少なくともおジイさんの家から1kmはある。だから、村の人はおジイさんに会いに来たりしないし、ほとんど荒野に住んでいるおジイさんを変人だと思っている。小学校で習ったんだけど、人間の活動が原因で、世界中でこの荒野が広がっているらしい。人間の活動を制限するとか、いろいろな試みをやっているみたいだけど、なかなかうまくいっていないみたいだ。
 おジイさんは、家から100mほど離れた場所で、ヨイショと腰を下ろした。もうそこは草木も生えない荒野だった。土は乾燥していて、ベージュ色をしていた。おジイさんは、段ボールの箱を開けた。そして、僕は段ボールの中を興味津々で覗き込む。
「わぁ・・・」
 僕は思わず声を上げた。段ボールの中には、蟻ロボットが無造作に沢山放り込まれていた。僕が来なかった1カ月の間に、こんなにも沢山蟻ロボットを作ったのかと思うと、僕はおジイさんを尊敬してしまった。
僕が感心しているのをよそに、おジイさんは、段ボール箱を逆さまにし、蟻ロボットを無造作にバラバラと荒野にばら撒いた。蟻ロボットたちは、荒野に落ちると、軽くバウンドし、コロコロとランダムに散らばっていった。
 おジイさんの蟻ロボットに対する無造作な扱いに、蟻ロボットが壊れはしないかと心配になり、「そんなに手荒く扱って大丈夫なの?」と僕は聞かずにはいられなかった。
「まあ、見ていてご覧よ」とおジイさんは自信ありげに答えた。
 1分ぐらい経ったころだろうか、しばらくすると、蟻ロボットがモソモソと動き始めた。僕は思わず、「あっ!」と声を上げた。
 おジイさんは、自慢げな様子で僕に微笑むと、「この蟻ロボットは太陽の光をエネルギーにしていて、太陽を浴びると動き出すんだ。そして、多少乱暴に扱ったって壊れやしないんだ」と言った。
 モソモソと動く蟻ロボットを僕は息を呑んで見つめた。すると、それぞれの蟻ロボットが土を取り出し、ある場所に運び始めた。見る見るうちに、ある場所に10cm程の山が出来た。蟻ロボットの動きに釘付けになっている僕に、おジイさんは言った。
「蟻ロボットは、空気中の僅かな水分と土に含まれる物質から粘液物質も作れるようになっている。その粘液物質で土を固めることもできるんだ」
「ねんえきぶっしつ?」と僕が首を傾げると、おジイさんは微笑みながら、「ネバネバする糊みたいなものだよ」と言った。
「ふーん」と頷く僕に、「この蟻ロボットは、太陽エネルギーさえあれば無限に動き続けられるんだ。どうだい?すごくないかい?」とおジイさんは、自慢げに続けた。

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