僕はお父さんに、「何でおジイさんは、みんなに悪い言い方をされちゃうの?」と聞いたことがあり、そのときお父さんは言った。
「とても難しい話なんだ・・・おジイさんは、この国の考え方に反対していて、それでみんなの反感を買っているんだよ」
細かいことはよくわからなかったけど、意見がみんなと合わなくて喧嘩しているんだなと僕は理解した。僕は、「おジイさんのところに行っちゃいけない?」と恐る恐る聞いた。そのときまでには、僕の友達はみんな、おジイさんのところに遊びに行くのを親から止められていたからだ。お父さんは、ちょっと考える素振りを見せた後、「行きたいのならいいさ」と笑った。
ということで、今、おジイさんのところに遊びに来るのは僕だけだった。もしかしたら、おジイさんは寂しいかもしれないけど、僕はおジイさんを独り占めできるので、意外と嬉しい、なんて思ったりした。
「おジイさん、この虫みたいなのは何?」
僕はさっそくおジイさんに工房に連れて行ってもらうと、作業台に載っている虫のような物体を見つけ尋ねた。最近、勉強だったり、修学旅行だったりで、小学生の僕も忙しかったので、おジイさんのところにくるのは1カ月ぶりだった。おジイさんはその間に、新しい発明をしていたようだった。
「ああっ、これかい・・・これはね。蟻ロボットとでも言っておこうか・・・」とおジイさんは答えた。
そう言われて改めてそいつを見てみると、確かに蟻のような形をしていた。ただ、実際の蟻よりもかなり大きく、カブトムシぐらいの大きさだった。僕には角のないメスのカブトムシに見えた。おジイさんは自分の発明したものに、その場で適当に名前をつける癖があるので、きっと蟻ロボットも今適当につけた名前なのだろうなと僕は思った。なので、名前のことは、まあいいやという気がして、それよりも気になることを僕は尋ねた。
「これは何に使うの?」
おジイさんは、その蟻ロボットを取り上げると、それを繁々と見つめ、僕の方に向き直ると、微笑みながら言った。
「土で、山を作ったりするんだよ・・・」
土で山を作るってどういうことだろうと僕が首を傾げていると、おジイさんは、「試してみるかい?」といたずらっ子のような笑顔で言った。
僕は満面の笑顔で「うん」と頷いた。
「じゃあ、蟻ロボットを持って外にいこうか」とおジイさんは言うと、作業台の横にあった50cm角のサイコロのような段ボール箱をヒョイと持ち上げると、工房の外に歩いて行った。僕は遅れまいと、おジイさんの後を追った。