小説

『VR恋愛住宅』柿沼雅美(『恋愛曲線』)

 声が大きくなる美嘉の口を、ちょっとシー、シー、とおさえた。
「だって、だって、びっくりじゃないですかぁ」
「そうだよねー、珍しいよねー」
 私が頷くと、はじめて会いましたよー、とまだ美嘉が興奮している。
「なんで隠してたんですか、別に悪い事してるわけじゃないのに」
「そうだけど、なんかあまりにも少数派になるし、昔の人って感じに思われるかと思って」
「あー、おばあちゃんかよ、みたいな感じですか?」
 そう言って美嘉が笑う。
「でも昔はそれが一般的だったんですよね? あたしの親はもう新恋愛だったから学校でしか聞いたことないんですけど、そもそもいつから今みたいな制度になったんですかねぇ」
「私は祖母が旧恋愛だったらしいんだよね。でもすでに新恋愛の波が来てて。聞いた話だと、昔に、えらい失恋した女がいて、その女にひどく恋焦がれてる男がいて、男は心臓の生理的研究をして恋愛曲線の製造を思いついたらしいの。死にたくなるほどの失恋の落ち込みの波形に、自分の最高の恋愛感情を当てはめたら綺麗な形になるんじゃないかって、それがはじまりだったらしいよ」
「へぇ、死にたくなるほどの失恋かぁ、すごい発見だけどそれはイヤだなぁ」
 美嘉は失恋とかがもう古くさい感じ、と付け加えて笑った。
「でもおかげで今があるんだよねきっと」
「そうかもですねぇ。だって昔は、レズとかバイとかホモとか言われる人に偏見があったんですよね? そんなの今は関係ないし。若かろうが高齢だろうが受精できるじゃないですか、っていうか、自然妊娠のが珍しいじゃないですか」
「そうだねぇ。お腹痛めて生んでなんぼっていうのもあったらしいよ」
「なにそれ! ぜったいイヤですよー。よかったぁ無痛処理が一般的な時代で」
 だよね、と私もそれには同意する。
「あ、もしかして先輩セックスとかするカップルですか?」
「は? なんてことを聞くの」
 そう返しながら熱くなりそうな両頬を手でおさえた。
「だって旧恋愛ってそういうことですよね? 今じゃ滅多にしないけど、まぁスキンシップのひとつであるわけだし。でも昔はカップルはセックスするものだったり、子供を作るために一般的な行為だったんじゃないですか昔は」
「もー昔昔言わないでよー。もうノーコメント」
 私が言うと、えー聞かせてくださいよーと美嘉が笑う。

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