その声によって、私は一瞬のように感じる深い眠りに落ちた。鈍く重いのに甘くふわふわとした香りで目覚めると、李杏が私の足元にしゃがみこんでいた。彼女は、湯気の出ているマグカップを口につけていた。
「あ、大丈夫そう?」
こちらを振り向いてから首をかわいらしく傾げて、李杏が言った。まるで絵画のような図だった。
「それは?」
「ああ、ボウルに余ったのをホットチョコレートにしたの」
李杏はマグを少し持ち上げて、悪戯っぽく笑う。テーブルにも、もう固まった四角いチョコレートが置かれている。私の視線がそちらへ動くと同時に、李杏がそれに手を伸ばした。
「これも、いただくわ」
パキッという音をたてて、小さな紅い唇から、チョコレートが、私の血が、この命が、彼女の中へ入っていく。
「やっぱり私、あなたが一番好きよ」
息をついて彼女がそう言う度、私は自分の知らない二番や三番、それが何番までいるのか、それから彼女の存在について、考えを巡らせてしまう。けれど李杏が私の髪に触れて微笑むと、たちまちそんなことはどうでもよくなるのだ。重要なのは、美しい彼女が、自分の命と共にそこに在ること。
「ねぇ、これはまるで呪いみたいだと思わない?あなたは、どうして私から逃げないの?」
つまんだチョコレートを眺めながら、李杏が言った。彼女の指先で、チョコレートが溶けることはない。それは口に入るまで、尖った形をキープしている。
「逃げた人はいる?」
私は言った。李杏は答えない。私は、逃げなかった彼らの声を代弁する。
「甘い呪いは、美しい魔法と同じなのよ」
*