小説

『Loveless』五十嵐涼(『ピノキオ』)

(ちょっと面倒くさい子だな)
「確かに、AIは一括生産だから同型ならばどれも同じウィルスに感染してしまう。でも人間は、例えばペストやエイズの様に遺伝子レベルで感染しない人もいる。なんにおいても例外があるというのは事実だけど・・・・・・っていうか、キミさ、友達いないでしょ」
 冷たく言い放った後で、しまったと後悔したが時既に遅し。彼女はグリグリのアーモンド目いっぱいに涙を溜めていた。
「あ・・・・・・」
「いないよ、何か悪い?」
「・・・・・・・いや」
 気まずい沈黙が二人の間に漂う。時が止まってしまったみたいに動かない僕らの間で、ストロベリーアイスだけがドロドロと溶け崩れていた。
(まずいな、こういう時はあまり下手に弁解するのも良くない。かと言って、このままっていうのも)
 必死に解決策を探すがなかなか見つからない。すっかりアイスが液体と化した頃、やっと動きをみせたのは僕ではなく彼女の方だった。
「あなたが友達だから良いじゃない」
 突然何を言い出すのか。しかし、彼女はスッキリした様子で、機嫌良さそうにチェリーパイを頬張り始めている。
(???意味が分からん)
 僕は女の子と付き合った事がないし、出会ってすぐの子とこんな風に二人きりで話した事もなく、彼女の反応が全くもって理解不能だった。
「友達?僕ら今さっき知り合ったばかりだけど」
「私はあなたがいつも映画館に来る事をずっと前から知っていたけど」
 俯いたまま必死にパイを食べている彼女の耳がほんのりと赤く染まる。
「僕は知らなかったけど・・・まぁ、そういう事なら、友達と言えなくもないね」
 僕の言葉を待っていましたと言わんばかりに顔を上げる彼女。
「だよね!」
 こんなあやふやな返答にすら、彼女は満開の花々の如く華やいだ笑顔を見せてきた。
(どうしてこんなにもクルクル表情が変わるんだろう・・・不思議な子だ)
「でもさ、なんで僕なんかと友達になりたいんだ?もし僕はキミが思っている様な人間じゃなかったとしたら?」
 素朴な質問をぶつけてみると、予想外に彼女は腕組みをし、暫くうーんと唸っていた。
(おいおい、そこ、悩むのかよ)

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