小説

『Loveless』五十嵐涼(『ピノキオ』)

(僕もここにいる人や動植物も、AIが作った・・・人形がつくった人間だなんて、何て皮肉な)
 ぼんやり考え事をして立ち止まっていると、ふと胡桃程の大きさをした浮遊カメラが僕を捕らえている事に気付いた。
(AIが街の管理の為に放っている監視カメラか)
「観察されながら生活する身にもなれよな」
「だよね」
「わぁっっ!!」
 急に横から声が聞こえ、思わず大声をあげる。
「あ、やっぱり、キミは本物の人間だね」
 にこりと微笑む少女は、おかっぱ頭をした可愛らしい子だった。紺色のブレザー姿で、その制服はここから一駅先にある女子校のものだ。
「本物の・・・人間」
「やっぱり生粋の人間が一番よね。ほら、最近は人間とAIのハーフも結構いるから」
 そうなのである。15年くらいから前から、AIは新生児に機械のパーツを移植し、成長と共にどのような変化がもたらされるのかを実験していた。
「キ、キミは?」
 肩をすぼめたまま、僕がボソボソと話すと、彼女はますますニタァと笑ってみせた。
「くくく、やっぱりこういう反応じゃなきゃ。あ、私はルカ。もちろん人間だよ」
 サッと手を伸ばし握手を求めてきたが、僕が戸惑っていると、無理矢理掴んできた。
「ほら、あったかいでしょ」
 彼女の白く柔らかな手は、この寒空の下でもほのかな温もりを帯びていた。
「ねぇ、あなた、殆ど毎日ここに来ているけど、映画すきなの?」
 くりっと丸い目がしっかりと僕を見つめる。
「映画というか、映画館の雰囲気が・・・」
「ふぅん、映画館の雰囲気ね」
 何が腑に落ちないのか、腕組みをし、わざとらしく首を傾げる。
「な、なんだい」
「彼等が、どうだ、人間?こういうのが好きだろ?って感じで作った映画館だったとしても?簡単にのせられちゃうんだ」
 彼女の言葉に一瞬カッときた。そしてそれは、そのまま表情として出ていたのだろう。彼女はほぉ〜と感心した顔をし、そしてまた歯を見せて笑った。

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