「フランケンシュタインという物語を読みました。主人公のフランケンシュタインが怪物を造ることになった原因は、彼が子供の頃に父親から受けた抑圧です。父親は彼の考えを強く否定し、そのことが反発を産み、反発が怪物を生みました。ですからあなたが私を造ったのも、抑圧からくる感情からかと推測しました」
「具体的に、どういう意味だ?」
「死が生み出す、「得られなかった未来」に対する欲が、あなたの中にあるということ」
「誰の死だ?」
「僕です」
「じゃあお前は、俺に何をしてくれるんだ?」
「何も。あなたは、失敗しました。でも、あなた自身にできることならあります」
「それは?」
「僕からこのボディを外す、または僕ごと破壊してしまうことです」
孝雄さんは僕を、僕の外側にあるボディを、しばらく眺めていた。その表情がだんだんと、あのとき彼女が見せたものに近づいていく。
「僕は何です?幽霊ですか?あなたを苦しませる為に造られた怪物?」
「・・・事故のことを知ったんだな」
「はい。今朝。推測を元にいろいろ調べていたら、その事実に突き当たりました」
「あれだけ毎日いろいろ調べてればな・・・。まぁでもこれは、お前にはわからないことなんだ」
「原因は突っ込んできたトラックの前方不注意とありました。息子さんの死に対して、あなたに非がなかったということは、僕にもわかります。あの女性、元奥様ですよね?息子さんの母親。彼女にもわかっていた筈です。だから、あなたは失敗した。あなたは彼女に僕を見せて、自分を責めさせようとした。彼女はあのとき、「もし今」と言いました。「もし今、息子が生きていたら」そう言って彼女に責められることを、あなたは期待していた」
「普通は思うもんなんだよ。どうして一緒にいたのに守れなかったのかって。でもあいつ、ただの一度も俺を責めなかったんだ。本当、大した女だよ。とうとう責められることなく終わったしな。お前の言う通り、失敗だ」
そう、彼は失敗した。僕にできることはない。これが事実だった。過去を見ることだけを望んでいたなら、ある程度の情報があれば、僕が息子さんの姿を再生することは、少しは可能だろう。でも彼らが欲していたのは未来だ。息子さんの人生は六歳で完結してしまって、未来はもうどこにもない。それに、時間を超えられなければクローンに意味はない。生物のクローンを造っても、同じ時間の同じ筋を通って生きることがなければ、それは遺伝子が同じというだけの違う生き物だ。
「人間以外に、自分で自分に罰を与える生物はいますか?」