小説

『怪物』和織(『フランケンシュタイン』)

「わかりました」
「前の、あんまりだった。他のレシピにして」
「はい。お好みは?」
「前のより、ちょっと甘め」
 それだけ言って、彼は通信を切った。僕は掃除機をかけながら、レシピの検索をする。孝雄さんの言うちょっと甘めの「ちょっと」を、彼の言動から想定し、前に使ったレシピと比較しながら新しいレシピを選んだ。前に使ったレシピはごみ箱へ入れた。
「角煮はこのレシピがスタンダードで決定だな」
 夕食を食べ終えて、孝雄さんはそう言った。
「了解しました」
「これからバズとライトが出勤だから、一階にいる」
 バズとライトは、引っ越しアンドロイドの一号機と二号機の名前だ。彼らが出勤中、孝雄さんは一階で作業をモニターし、必要に応じて遠隔操作を行ったりする。
「わかりました。あとでコーヒーをお持ちします」
 その日ゴミ箱に入れたものは、きちんと削除された。孝雄さんは、要らないものは確実に消去する。

 
「あなた、なんて馬鹿なことをしたの」
 最初、それは僕に向かって発された言葉なのかと思った。だから、答える為に思考した。しかしそのうちに彼女は孝雄さんへ顔を向け、彼の頬を叩いた。
「馬鹿。こんなに馬鹿だと思わなかった。散々話し合ったよね?お互い大丈夫になる為に別れたんでしょう?こんなことして情けなくないの?・・・・・何か言いなさいよ。・・・ほら・・・結局、何も変わってないんだね。虚しさが贖罪のつもりな訳?自分の方が苦しんでますってこと?偉そうに、ふざけないでよ!」
 そう言って、彼女はまた僕を振り向く。首を傾げて、目を凝らし、見開いて、息をのんだ。一歩、僕に近づき、膝を折って、僕の顔を少し見上げる形になる。「もし今・・・・・」

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