小説

『ビーフジャーキーと猫』広都悠里(『七匹の子ヤギ』)

「相田の猫って、どんな猫? ほら、色とか、模様とか大きさとか」
「オレンジに近い、茶色の縞猫で、目は緑色。尻尾が長くて」
 手に持ったビーフジャーキーのパッケージがかしゃくしゃと音をたてる。
「名前は、チェリ―」
 隼人の肩がびくりと揺れる。
「オレ、多分、その猫知ってるよ。最近いつもうちに来るんだ。きょうもきっと来るよ。そうか、相田の猫か。じゃあ、今からうちに来る? 」
「望月君の家? 」
「たぶん、家の前で待っているんじゃないかな。今日、九時にバイト終わるって言っておいたし」
 あたしは黙って隼人の隣を歩く。
「こんなことって、あるのかな」
 隼人が照れたように笑う。
「俺も、猫のこと、チェリーって呼んでいたんだ」
 立ち止まって、あたしに向き直る。
「すごい偶然だね」
 ほんとは偶然なんかじゃないけどね。
「チェリーって、相田の名前だろ、相田智恵理」
 隼人が何を言いだすのかわからなくて、その顔を見つめ返す。
「なんか、相田っぽかったんだ、その猫。だからちえり、で、チェリーって、呼んでいたんだ」
 え、そうだったの? なんでチェリーって名前にしたのかなって思っていたんだけど、智恵理でチェリーだとは思わなかった。なるほどね。
「えーと、それってつまり。もうわかるだろう? 」
 そっと触れられた指先が照れている。
「うん。わかるよ」
 あたしも隼人の方に向き直った。
 だって、猫になったとたんまずあたしはまっすぐ隼人のところに走って行ったんだもの。おかあさんのところでもなく、他のだれのところでもない、望月隼人のところへ。

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