小説

『ビーフジャーキーと猫』広都悠里(『七匹の子ヤギ』)

「猫が」
「猫?」
「いなくなっちゃったの」
「猫を探していたのか? 」
 うん、と嘘をつく。
「俺も、一緒に探してやろうか」
「ありがとう」
「とりあえず、これ、買うわ」
 かごをひょいとあげてみせたあと「相田も、何か、いるものある? 食いたいものとか」とまっすぐな目で聞いた。
「ビーフジャーキー」
「ビ、ビーフジャーキー? 」
 頷いてコンビニの棚を探す。
「コンビニに、そんなものあるのかなあ……あった」
 するめやチーズ鱈といっしょに、ビーフジャーキーはぶらさがっていた。
「どれ? 」
 一番小さなパッケージのものを手に取って「ごめん。あとでお金払う。今、財布持っていなくて」と小さな声で言った。
「いいよ。奢るよ」
「でも、ビーフジャーキーって、意外に高いし」
「いいよ、このくらい。別に高くないよ」
 笑って籠に入れてくれた。
「ビーフジャーキーが好きなの? 」
 ううん、と首を横に振る。
「嫌い」
 え? きょとんとしてあたしを見返す、感情丸出しの無防備な顔。
「猫が、好きなの」
「へえ。猫が」
 会計を済ませると、レジ袋からビーフジャーキーを取り出して渡してくれた。
「ありがとう」

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