小説

『ビーフジャーキーと猫』広都悠里(『七匹の子ヤギ』)

「人間に戻っちゃったじゃん」
 あーあーあー、何で? もうずっと猫のままで良かったのに。
  ぼけっとあたりを見回す。街灯が白く光ってまぶしい。葉っぱがさわ、ざわあと揺れる。  不意に目が熱くなった。
 なんで今頃、涙なんか。手のひらでぬぐうけど、だらだら流れてしまいに喉がうっくうと閉めつけられたみたいになって「ううううひいいっく」と情けない声が漏れる。
 なんの涙なのか、さっぱりわからないけど、出てくるものはしかたがない。あたしはベンチで涙が止まるのを待つしかなかった。
 泣き終わって、水道で顔を洗う。
「はあー、これからどうしよ」
 着ていたトレーナーのはしっこでとりあえず顔を拭いて、ため息をつく。おなかがすいたよ、おかあさん。
 ふらふら歩いて知っている場所に出たら、足は自然に望月隼人の部屋に向かっていた。
「あ」
 だめだ。だってあたしはもう猫じゃない。
 慌てて引き返す。
 とりあえず、明るいコンビニに吸い込まれるように入ると、そこに明るい髪をした見覚えのある人を見つけた。
「あれ、相田」
 隼人の籠には焼き肉弁当とちくわが入っていた。
「ちくわ」
 きっとあたしのために籠に入れたのだ。でもね、もうチェリーはいないんだよ。
「あ、うん。ちくわ、つまみにね。相田、何でこんなところにいるの? 家、このへんだっけ? 」
「ちがうけど」
「へえ。偶然? 」
 偶然じゃないよ。帰りにいつも隼人がこのコンビニで買い物をすることを知っていたんだ。顔を見て、そのことを思い出したんだけど、でもきっとあたし、今、隼人に会いたかったんだよ。
「あ、そういえば、おまえ、バイト、無断欠勤しただろ。店長、すげー怒ってたぞ。連絡しといた方がいいんじゃない? 」
「うん」
「なに、具合、悪いの? 」

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