小説

『パノプティコン』末永政和(『シャロットの姫』テニスン)

 城から出たとき、騎士の姿はまだ遠かった。彼女は川岸につながれた小舟に目を留めると、そこに身を横たえ、小川がせせらぐに任せた。水の流れがこの身を騎士のもとへ運んでくれるであろう。恍惚としたその顔を打ったのは、無数の雨粒であった。空には雨雲が低く垂れ込め、東風は森の枝を折り、この世の光を取り上げた。

 
 こうしてシャロットは、災厄となったのである。かつて彼女が糾弾した神々と同じように、彼女の衝動は街を滅ぼした。窓から下界を見下ろしたとき、お前は全てを失うであろう。その呪いの通り、彼女は自身の命だけでなく、このキャメロットの城を、この街を、海に浮かぶ孤島そのものを失ったのである。暗い雨と雷がキャメロット城を襲い、あちこちで死のうめきがこだました。騎士の姿などどこにも見えなかった。最後に残ったのは、なお死にきれずに臨終の歌を口ずさむシャロットの姿だけであった。雪のごとき純白の衣装は光をはらみ、小舟からこぼれ落ちて水辺に広がった。彼女の血は冷たく凍え、頬は青ざめ果てていた。両の瞳は暗闇を見つめ、聖なる歌が終わるのと同時にかたく閉じられた。小舟はやがて大海へ流れ出て、その後は杳として知れなかった。

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