その横で、一人遊びに笑い声を立てる長男。
写真に収めたくなるような光景に背を向け、私は、夕飯の洗い物も終わった台所で、ガスコンロを磨き始め、磨くことで気持ちを静めていきました。
「よし」と自分に声をかけ、リビングにもどると、リビングと繋がった和室の襖が開いていて、篤志さんが子供たちを寝かしつけたところでした。
「タカシ、ぐずらなかった?」
「よっぽど眠たかったのか、すぐにコテッと寝てしまったよ」
「サツキは?」
「サツキも、わりとすぐに眠ったよ」
「絵本の話、何かした?」
「何かって、何?」
「感想とか質問とか、何かそういうような……」
「あぁ。マッチ売りの少女が、おばあさんの所に行けて良かったって言っていたよ」
「えっ……」
(そういう見方もあったんだ)
てっきり、わが子も、子供だった時の自分と同じ感想を持つものと思い込んでいただけに、二重に驚きました。
(私が読んであげなくて良かった)
読み手が篤志さんだったから、ハッピーエンドになったのだと思いました。
物語のページをめくる厚くて大きな手。低くて深い、彼の声。
私では、きっとハッピーエンドにはなりませんでした。
「どうして、お父さんが少女にマッチを売らせていたの?」
「どうして、誰もマッチを買ってあげなかったの?」
そんな事を聞かれたらどうしよう……と先走る不安が娘にも伝わって、後味の悪い物語になっていたのではないかと思うのです。
自分をかわいがってくれたおばあさん。
誰かに大切にされたという記憶。
決して、悲しいだけの話ではなかったマッチ売りの少女。