小説

『Okiku_Dool』植木天洋(『お菊人形』)

「ワカメちゃんじゃん」
「そうなのよ」
「ふふ」
 彼は小さく吹き出して、人形を私につき返した。
「面白いね」
「そうかな」
「ワカメちゃんヘアーの日本人形って」
「そうだけど」
 私は少し途方に暮れて、私の手に乗った人形に目を落とした。人形は買った時と変わらない表情で、つんとつましている。ワカメちゃんヘアーなのに。
「どこまで短くなるんだろう?」
「ハゲるんじゃね?」
「ええー」
「ハゲるよ、そのうち」
「えー」
 彼はラップトップに目を移しながら、ハゲるハゲると繰り返した。人形といっても女の子なのに、そんな言い方はないだろう。でもモノだしな。人形が異様な変化を見せる一方で愛着が湧いてきたことで、私の価値観は揺らぎつつある。
 私にはそういうところがある。機械やモノ、おおよそ無機質で命のないものに生きているかのように性格を見出して、対話する。なかなかスイッチが入ってくれないアンプには「今日は機嫌が悪い」と思うし、いよいよ不要になって捨てようとしたCDデッキが急に動き始めたりして「まずい、捨てられる、頑張らなきゃ」とCDデッキが必死になっているように感じる。開きっぱなしのラップトップパソコンが原因不明のエラーを起こしたら、ああ、働き過ぎて疲れたんだな、なんて。
 とはいえ、故障はただの故障だし、劣化があって、エラーがあるのだ。それは無機的な現象であって、魂はない。はずだ。でもそれを超えた生命力を無機のものたちに感じるのだ。矛盾しているけれど、受け入れざるを得ない自分の湧き上がる感情。
 人形は黒目がちな小さな目で私を見返してくる。私は人形を定位置に戻して、仕事をはじめた。

 ついにその時が来た。

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