「つるつる」
人形の頭を撫でる私を、彼が眠そうな目で見る。
「うお」
「ハゲた」
「マジかー」
自分で「ハゲる」と言っておいて、実際にそれが起きると「マジかー」である。もちろん本気で動揺しているわけではなく、ネタ的に言葉を返しているだけなのはまるわかりだ。彼にとって人形の髪が伸びようと短くなろうと、そんなに興味がないことなのだ。
「今度は伸びてくるよ」
「ええー」
「ばさぁって」
自分の頭に手をやって、そこから水が放たれるように手をさっと下に下ろす。髪が勢い良く生えてくる様子を表現したかったようだ。
私はまったく頭髪がなくなった人形の頭部を見つめた。髪の毛どころか、毛穴さえない。本来なら毛を差し込む小さな穴が無数にあるはずなのに、頭皮はつるりとしてキメが細かい。眉毛は筆で描いてあるし、睫毛はない。体毛も…多分、ないだろう。女の子だし。
「どうしよう」
困惑した私を、彼がじっと見つめる。
「さよならしようか?」
「そうだね」
私の提案に、彼がそっけなく応える。それもいいんじゃない、別にどうでもいいけど。みたいな感じで。
私はもう一度人形を眺めて、坊主になってしまった頭をつるりと撫でた。すべすべとしている。また髪の毛は生えてくるだろうか。しかしその結果にはもう興味がなかった。クロゼットの奥からお気に入りの和紙を取り出し、それをテーブルにひろげて丁寧に人形を包む。セロハンテープで封をして、両手でそれを持ち上げる。それはもう人形ではなくて、綺麗な和紙に包まれた「何か」になっていた。
私はキッチンにあるゴミ箱の蓋をあけると「さよなら」と言いながら和紙に包まれたものを押し込んだ。なるべく乾いたゴミの間に。気づくと彼が寄り添っていて「さよならー」と言ってくれた。