「ライカちゃん」
「コトリ」
振り返ると、ぽろりと大粒の涙がコトリの瞳からこぼれ落ちるのが見えた。
「どうして」
ライカは幼い二人にはモモが明日出撃することを伝えなかった、だってそうさせるつもりはなかったから。ただ、夜の間は施錠されてしまう兄の部屋に入るために少し手伝ってもらっただけ。
エンにはモモが寝室に入る前にベッドの下に隠れていて、モモが寝付いたら中から鍵を開けて合図するように。コトリにはエンの不在を誤魔化しながら合図を待ち、ライカに伝えるように。
今晩ライカの身に何が起きたとしても、二人はこれからもずっとモモの傍にいられるように――そのために、何も知らせずにいたのに。
「にいちゃ」
「ライカちゃん」
ぐずり、痛々しく鼻を啜る音がライカの耳を打つ。腰に巻き付いたコトリの腕がじりじりと焼けるような熱を伝えてくる。
「行かないで」
にいちゃんと、ライカちゃんと、いっしょにいたいの。
エンがわあと泣き出し、コトリが声を押し殺してしゃくりあげる。
ライカは唇を噛み締める。
わたしだって、ただ一緒にいたいだけ。この狭いベッドでぴったりとくっついて眠った幸せなあの夜のように。ねえ、モモ。モモはそうじゃないの。どうしてわたしたち以外の何かのために、わたしたちを置いていこうとするの。
一方でライカだってちゃんとわかっている。モモが命を賭けて守ろうとしたのは、ライカたちも含めたこの地球の全てだ。選ばれた者の使命と責任の重さは、簡単に天秤に載せられるものじゃない。
わかっている、けれど。
もう少しで涙が溢れそうな目尻を、モモの太い指が擦った。
「にい」
「ライカ――エン、コトリ」
モモが右腕でエンを抱き上げる。痛みを顔を歪めながら、左腕でライカとコトリを引き寄せる。肩にはまだ小さなナイフが埋まったままだというのに。