モモはきょうだいたちに乗っかられたり蹴飛ばされたりしてねじ曲がった姿勢のまま、くっくと絶えず喉を鳴らしていた。きょうだいの頭を代わる代わるぐしゃぐしゃとかき回しながら、お前らあんまり笑わせんなよ止まんねえと囁くモモの声は震えていた。
その翌朝、コトリとエンがまだ眠っている間に水を飲みに向かったキッチンで、ライカはモモが小惑星O-NI迎撃計画のパイロットに指名されたことを聞かされた。
ライカはコップを取り落とした。温い水が足を濡らした。それがどれほど困難な計画であるか、ライカは毎日のニュースで嫌というほど見聞きしていた。
モモはコップを拾い上げると、ライカの肩をぎゅっと握った。
もちろん心配は要らない。必ず帰ってくる。例え成功率が一パーセントを切るような難しい、しかも前例のないような任務であっても、常に成功させる前提で物事を考え動くのがパイロットというものだ。お前だってパイロットの卵ならわかるだろう。今までだって困難な事態はいくらでもあったが、いつも最後には上手く行った。だから今回も大丈夫だ。
でも、でも万が一、何か最悪なことが起きてしまったら、ライカ、あいつらを頼むぞ。
ライカは答えられなかった。強く掴まれた肩がぎちぎちと痛んだからではない。
ライカを見つめるモモの目元が真っ赤に腫れていたからだ。
モモが部屋を施錠して眠るようになったのは、その日の夜からだった。
積み上げた教科書とノートを段ボールにしまい込みテープで目張りする。「もえるごみ」と書いたメモを張り付けたそれを三箱積み上げて、ライカはやっと一息ついた。全くパイロットは覚えることが多すぎる。
ぐるりと部屋を見渡して、モデルルームのようにすっきりと片付いた様子にライカは満足の溜め息を漏らした。
「ライカちゃん」
細く開いたドアの隙間の向こうから、コトリが小さな声を上げた。
「なあに」
「あの、エンからあいずがあったよ」
「わかった、ありがとう」
部屋に入ってきた妹の頭を撫でてやると、コトリは不安そうにライカを見上げた。
「ライカちゃん、どうしておへや、かたづけてるの」
「それはね、遠くに行くことになるかもしれないから」