「何だ」
「本当に言わないの、明日だってこと」
「言わない。コトリもエンも泣くだろ」
言ってからはっと気が付いて、モモは目を伏せる。
「ごめんな、ライカ」
ライカは黙って生クリームを頬張った。
モモがライカにだけ全てを打ち明けたのは、ライカがコトリとエンのお姉さんだからだ。その信頼が素直に誇らしい。けれどやっぱり、ライカだって泣きたい時もある。
でも大丈夫。
「コトリ、エン、食べ終わったなら手洗って、お風呂入っておいで」
「はあい」
普段はぐずる二人が素直に駆け出すのをモモは眩しそうに目で追って紅茶を飲んだ。ライカはそんな兄をじっと観察する。
大丈夫。モモを一人で戦わせたりしない。わたしたちはずっとモモの傍にいる。
一週間前のことだった。モモが初めて、酔っ払って帰ってきた。
リビングでモモを待っていたライカは、コートのボタンを全てかけ違えマフラーを額に巻いた兄の姿に絶句した。上機嫌のモモは真っ赤な顔で帰ったぞおと叫び、とうに眠っていたコトリとエンの部屋に乱入するなり寝ぼけた二人の頬に濃厚なキスをかまして、二人の目をすっかり覚ましてしまった。
それまで「酔っ払い」なるものを見たことがなかったライカたちは最初こそひどく戸惑ったが、生真面目なモモが何故か半裸で踊ったりひっくり返ったりするのにエンは笑い、いつもより少し荒っぽく遊んでもらえるのにコトリははしゃぎ、久しぶりにモモの満面の笑みを見てライカも嬉しくなった。いつもなら夜ふかしを咎めるモモと一緒になって深夜まで騒ぎ、風呂にも入らず四人揃ってモモのベッドに倒れ込んだ。
そんな風に身を寄せて眠るのはもう何年かぶりのことで、当然ながらモモのベッドは狭すぎた。コックピットに無理に潜り込んだらこんな感じかもしれない、とライカはこっそり想像した。エンとコトリが互いを押しのけ合うから、ライカは二人を叱りながら両腕に抱え込まなければならなかった。