小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

 「ごめんね、不具合で」
 そう言う監視男に、ちがう残念なのは不具合じゃないそこじゃない、と思って掴みかかりたくなって、でも黙った。
 「リリースされたらVRの機械プレゼントするから使ってよ」
 監視男のあとでまた別の男が、よかったじゃないですかー、と僕に言う。僕は、あ、はい、ありがとうございます、と言うしかなかった。
 「他の参加者の人たちの映像ももうすぐ切るんで、ちょっと待っててね」
 そう指示する女性スタッフに、僕は、やめてあげてくれ! と心の中で叫んだ。この6人はもう、バーチャルリアリティのなかで生きている。
 目が普通に戻った僕に見えるこの部屋は、白く艶めいていた雰囲気を一掃してしまっていた。そこには暴露された現実の世界が、醜いむくろのように曝されていた。白雪のようなテーブルクロスにしろ、純白なカーテンにしろ、僕が惑わされていた甘美なピンクのキャンドルまでが、何とみすぼらしく見えることよ。
白い部屋の中には、どこの隅を探しても、もはや、夢も幻も、影さえとどめていなかった。

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