小説

『宵待男』室市雅則(『宵待草』竹久夢二)

 それが余計に足下の気持ち悪さを加速させました。
 でも彼女に会えば、こんな瑣末なこと吹き飛ぶので大丈夫です。

 待宵草は雨に打たれて項垂れしまっています。
 僕も項垂れてしまっています。
 時間は夜十時です。
 国道を通る車の数も減っています。
 今日も彼女は来ません。
 何かトラブルに巻き込まれていやしないか心配になってしまいます。
 僕も彼女の全てを知っているわけではないので、もしかしたら雨が嫌いな人なのかもしれないと想像します。
 さらに彼女は身だしなみに気を遣うタイプでしょうから、少しウェーブがかかった毛先が決まらないのを見られるのが嫌で、出かけるのを止しているのかもしれません。
 思えば、彼女と初めて出会った一昨々日は夕日が綺麗な日でした。
 そうやって、あの日を思い出していると根本的な失態に気付きました。
 彼女が言ったのは『また明日』でも『また明後日』でも『また明々後日』でもなく、『また弥の明後日』でした。
 だって彼女が約束を破るはずが無いのですから、明らかに僕の失態です。
 そうと分かれば、家に帰って熱いシャワーを浴びる事にします。
 体が冷えきって、震えてしまっています。
 明日が楽しみです。

 今日は風が強かったです。
 季節の変わり目は気候が変わりやすいです。
 風が色々なものを僕の足下に運んできました。
 ペットボトル、ビニール袋、チラシ。
 足下に絡み付くたびに拾うのですが、それをそのまま放り捨ててはまた誰かの迷惑になりますし、もし彼女に僕がそんな行動をしたと知られたらがっかりさせてしまうので、鞄の中に入れました。
 チラシはちょっと艶かしいような内容のものでした。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13