根元にはまだ土がこびりついており、口の中に土の味が広がります。
思い出したくない味です。
相川くんの顔が思い浮かびます。
それでも噛み続けます。
涙が出て来ました。
花びらが横倒しに生えたままの親知らずに間に挟まりました。
それを舌先で取り外し、飲み込みます。
待宵草さんを食べ終えると、僕は靴と靴下を脱ぎました。
そして、植込みに空いた穴の所に左足を突っ込みました。
昨日の雨がまだ土の中には残っていてひんやりとしています。
穴はひとつしかありませんので、右足はつま先で土をほじって穴を空けてから突っ込んで、植込みに立ちました。
両足できちんと立っています。
看板を持つ事も無く、そのままの自分で立っています。
きっと彼女はどこかで僕の様子を見てくれているはずです。
彼女が喜んでくれるなら、僕も嬉しいです。
ここで彼女を待つ事にします。
しかし、こうやって立ちますと癖で半眼になってしまいます。
視界がぼやけてきました。
熱のせいもあるのでしょうか、頭もぼんやりとします。
全身が熱くて寒いです。
目を瞑ってしまいました。
全てがシャットダウンされます。
暗闇です。
風の音も消えました。
口の中のざらつきも消えました。
どこか遠くに行くように意識も薄くなって来ました。
たった一つ念じているのは、僕がここで彼女を待つことだけです。