小説

『宵待男』室市雅則(『宵待草』竹久夢二)

 いつ会えるか分からないというどこか詩的な関係に彼女は憧れているのかもしれません。
 それまで僕は待ち続けられるでしょうか。
 短気な方ではないですが、いつか分からないというのは不安です。
 いや、もしかしたら彼女は僕を試しているのかもしれません。
 彼女は優しい女性ですから、以前、悪い男に騙されてことがあって、男を信じられなくなった。しかし、僕と出会った。僕を信じたいが、すぐには信じられない。だから、僕を信じるためのテストなのかもしれません。
 彼女の期待に応えたいです。

 
 悩んでいるうちに待宵草はすっかり満開です。
 三日月が夜空に浮かんでいます。
 そして、僕にも一つのアイデアが浮かびました。
 彼女からのテストへのベストな応対が浮かんだのです。
 それは僕がここにずっといれば良いのだということです。
 彼女が納得してくれるまで、僕は待宵草のようにここで待ち続けるのです。
 僕が待宵草になるのです。
 そうとなれば、僕と彼女のきっかけになった待宵草の位置がベストポジションのわけですから、どいてもらわなくてはいけません。
 僕らの間を取り持ってくれた待宵草さんには申し訳ありませんが、心を鬼にします。
 待宵草の根元を掴んで植込みから引っこ抜きます。
 根に付いていた土が風に舞っています。
 土と一緒に宙に浮かんだダンゴムシが体を丸めて落下しました。
 大切な仲人をそこらに放り捨てるわけにはいきません。
 僕は土を振り払って、待宵草さんを花の方から口に入れます。
 噛み締めると苦い汁が口の中に広がります。
 その苦さが人生なのだと自分に言い聞かせて咀嚼します。
 そして、飲み込むと待宵草さんが僕の中に消えて行きます。
 とうとう全身を口に含みました。

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