「いってきます」
「私も」
彩も続いて立ち上がり、二人で玄関に向う。
敦子に見送られて出勤する秀樹と彩。
ダイニングには浩一と敦子だけになった。
敦子は洗い物をしている。
浩一は卵焼きを飲み込み、その背中に声をかける。
「母さん、今までごめん」
敦子は振り向かずに返事をした。
「私こそ。怒らなかったのは、浩一に嫌われるのが怖かっただけだったんだよね。それが浩一のためにならなかった。ごめん」
「謝らないで」
沈黙。
敦子がそれを破る。
「今日はどうするの?」
「とりあえずハロワに行って相談してみる」
敦子が笑顔で拍手をしたので浩一は照れた。
「ごちそうさま」
食器をシンクに運んで玄関に浩一は向った。
敦子も見送りに出て来る。
浩一は扉を開くと光りが差し込んで来たので目を細めた。
「眩しいな。外の世界は」
敦子は浩一の背中を叩く。
「眩しいのよ。外の世界は」
笑う浩一。
「いってきます」
もう一度、浩一の背中を強く叩く敦子
「いってらっしゃい」
一度頷いて出て行った浩一。
閉じた扉に向って敦子は二度手を叩き合掌し、目を瞑って呟いた。
「皆が無事に過ごせますように」