「お袋は確かに今でも国内外問わず各国のセレブや要人の女性たちを相手に科負いを続けてはいるが今の時代、それこそ無用の長物だろ?女性用トイレには音消しの機械まで備え付けられてる世の中だ。最早、科負いの存在意義など彼女たちのステータスの誇示でしかないよ。」
新の言う通り科を負わせる目的以外で科負いを常に帯同させる事が良家としてのステータスでもあった歴史がある。
「…現存する科負いも私を残すのみとなりました。」
瀧は真を見つめ意を決してゆっくりと口を開き出す。科負いの歴史やこれまでの活動内容、瀧が科負いになった経緯まで、それこそは真が彼女から感じ取っていたミステリアスな部分の正体であった。
「残念なことに私と主人の間に女児は授かりませんでした。江戸の頃より代々受け継がれてきた科負い比丘尼を絶やす事はご先祖様に申し訳が立たず適いません。養子をとも考えた事もありましたが、真さん…貴女が生まれたあの日、私は貴女に言い知れぬ将来性を見たのです。そしてすくすくと成長していく貴女を見るにつれ確信しました。貴女には素質がある。」
「そ、そんなの持ってないよ私…。」
「貴女は他を慮る心根の優しさと自己犠牲も厭わない素晴らしい性格をお持ちです。そして何より科負いにとって天賦の才とも呼べる資質を兼ね揃えている。」
「資質?」
「貴女はお世辞にも決して端正な顔立ちではなく、ともすれば例え科を犯しても何ら不思議はない、疑問を持たれない、納得が行く!そんな産まれ以っての特別な見目姿を持っている。」
「それって私が見た目で損してるってこと?そんな…酷い…よ。」
「お義母さま、それは余りにも…。」
「これは幾ら望んでも、努力しても誰しもが手に入るものではありません。真さん、貴女は産まれ以っての科負いの才を持っているのです!」
「あっはははは。良かったな真。婆ちゃんが他人をここまで褒めるなんて滅多にないぞ。」
「…。」
その後、新が恵にこっ酷く怒られていたのは覚えているが好物のトンカツの味すら思い出せないほど落ち込んだ真であったが、しっかりと御代わりはしていた。