小説

『TOGA-OI』柏原克行(『狼と羊飼い』)

「お、お義母さま、真はまだ12歳の子供ですよ!!思春期に入ったばかりの多感な時期です!」
「世が世ならとっくに元服している年齢です。」
「ですが…。」
「え、私?とがおい?てんみょういん?え、なに?何なの?」
 唐突な大人達の会話に付いて行けず尊敬する瀧から自分が何かしらに指名されたのは何となく理解できた真であったが特に狼狽する恵の様子に自分に只事ではない何かが降りかかて来たのを察し唾を飲み込んだ。
「あの~、質問!とがおいって何?」
 場の空気を換えたかったのか子供特有のイノセンスなのか双が割って入った。
「科負いってのはだなぁ、科つまり罪を被るってこと。解り易く言うと要するにお婆ちゃんは誰かの罪をその人に代わって背負ってたんだ。でも罪と言っても泥棒とか犯罪の類ではないぞ。まぁ言って見りゃ誰かの起こしたミスやはしたない行いなんかを代わりに被る仕事だ。」
「はしたない行い?」
「そう。例えばオナラとか。」
「お、おなら!?」
 真は驚きの余りテーブルに両手を叩きつけ立ち上がった。と同時に双は腹を抱えて大笑いした。おなら等の取るに足らない所謂、下ネタが面白くて仕方がない年齢なのである。
「ちょ、ちょっと待って私がその何とか比丘尼になって誰かのひったオナラの身代わりをしろって言うのお婆ちゃん?」
「身代わりではありません真さん。科負いです!」
「言ってる意味が解んないよ!おばあちゃんは今までそんな下らない事を仕事にしてたの?」
「真っ!それはダメ!おばあちゃんに謝りなさい!お婆ちゃんは国の重要無形文化財保持者のなのよ!人間国宝よ!人間国宝!!」
「恵さん良いのです。人間国宝と言っても科負いの性質上、公には出来ず世間様にその存在どころか顔を知られる事すらも憚る日陰のお仕事。そんな称号、在ってない様なものです。」
「そりゃぁ屁をこいた奴の科を負う側の面が割れてりゃアイツは誰かの代わりに屁をこいたと嘘をついてるぞってバレバレになる。意味ね~もんな。」
 どうでもよくなったのか、いつの間にか新の酒が進んでいる。顔は赤ら顔だ。
「あなた笑い事じゃないの!お義母さんは真に科負いを継がせると言ってるのよ!あなたからも何か言ってちょうだい!」

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