女子達は別にして男子達は心無い嘲笑を真に向ける。真の科負いの行為が完全に逆手に取られ裏目に出たのである。
「ぷぅー。」
「今度はオナラかよ!臭いぞ!マコト!!」
今度はあろう事か口真似で放屁音を出す者まで現れいよいよ男子の悪ふざけはイジメの様相を呈してきた。全てを真の所為に仕立て上げる雰囲気が成立してしまったのだ。
「こら。いい加減にしろ!授業中だぞ!!」
仲根の鶴の一言でその場は治まったものの女子達の中でこの風潮が切っ掛けで一抹の不安が残る事となった。
「真ちゃん。もういいよ。私達の事、これ以上庇わないで。」
「そうだよ。木五倍子さんが傷つくことなんてないのに!!」
「ゴメンね。私達の所為で。」
「何言ってるの?庇ってなんかなくないよ!ゴメンね皆。私が日頃、粗相ばかりしてるから心配かけちゃって。大丈夫だよ!へっちゃら、へっちゃら。」
結衣を始めとしてこれまで真に名誉を護られてきた女子達はこぞって真を心配し始めた。だがそれでは科負いの本質に反する。それを先の経験から学習した真は頑なに自らの責任であると逆に友を気遣った。
「(私もまだまだなぁ。科を背負いきれていない…。お婆ちゃんならもっと巧く切り抜けられるんだろうな。)」
次の日の朝、登校してきた真は教室に入るや否や目を疑った。女子が全員口元にマスクを装着しているのだ。
「どうしたの?皆、風邪…じゃないよね?」
「これだったら誰かが大欠伸しても、くしゃみしたって誰がやったか特定できないでしょ?」
「昨日あれから皆で考えたんだ。真ちゃんを護る方法を。これなら真ちゃんが女子の誰かを庇う必要もなくなるし、真ちゃんも私達と同じ様にこうやってマスクしてたら男子達の意地悪も簡単には出来なくなるでしょ。」
「そんな、困るよ!だってそれじゃぁ科負いの理が…。」
「とがおい?」
「あっ何でもない。こっちのこと。」
ここで漸く瀧の科負いに双方情を挟めば科負いにあらずという忠告が身に染みた。しかし、それを機に女子達の意識は大きく変わった。真を傷付けさせまいと自分たちの襟を正し、授業中に欠伸一つ起こさないようになってしまったのだ。そこには奥ゆかしさや品と呼ばれるものがあった。それはまさに江戸の頃、多くの科負い達が身体を張って護り通そうとしたものである。これにより男子達もすっかり冷めてしまってイジメの風潮は一瞬で消え去った。こうなってしまえば七代目貂妙陰としては御役御免である。