「なんだか、変な感じです。体が軽い」
「すぐに慣れるさ」
「あの」
女は素っ気ない姫子を不安げに見つめた。
「この人は、その、これから」
「まだ言うかい」
姫子のうんざりした声に女は目を伏せた。
「ごめんなさい、あの、でも」
「ああもう、わかった、わかったよ。ちょっとそこのお茶取って」
「お茶?」
不思議そうに聞き返しながらも女が素直にコップを差し出すと、姫子は中の麦茶を宇良にぶちまけた。途端に宇良の全身からしゅうしゅうと白い煙が上がり、腐りかけた生ゴミの臭いが立ち込める。
女は瞬時に青ざめた。
「ひ、姫子さん」
「大丈夫さ。やれやれ、本当はモップか雑巾にでも変えちまおうと思ってたのに、あんたにそんな顔されちゃあねえ」
姫子が喋る間に煙が少しずつ晴れていく。
現れた宇良の体は二回りほど縮み、全身の皮膚が茶色く萎びていた。白くなった髪はほとんど抜け落ち、目は落ち窪み皮膚は弛んで、手足は骨に直接皮を張り付けたかのように細く弱々しい。ひいひいと呼吸音を漏らしながらわずかに上下する胸は、少し突き飛ばしただけで砕けてしまいそうに薄かった。
年老いた宇良の姿を頭から爪先まで眺めまわし、姫子は満足げに目を細めた。
「こんなものかね。まあ、死なない程度にこき使わせてもらうことにするよ。それでいいだろ」
「姫子さん」
女の声は震えている。
「何だよまだあるのかい」
「あなたは、一体」
姫子は一瞬ぴたりと動きを止める。女は怯えながらもひたむきに姫子を見つめている。
「あなたは一体、何者なんですか、どうしてこんなことを」