小説

『こぶとり坊や』酒井仐(『こぶとり爺さん』)

「だろ。おまえももっと山に来い。これからは一緒に来ようぜ、ぜ、ぜ」
「うん。そうする」
 山の頂上には昨日と変わらず大きな大杉が、どかんと立っている。
「おっきいね」
「おっきいいいい〜!!!」坊やが叫ぶ。「ほら、おまえも叫べ。気分爽快だぜよ、だべよ」
「もっきいいいい〜!!」
「なんだよ、それ。もっきいって、もっきい、もっきい」坊やが笑う。
「恥ずかしくて、変になっちゃったよ」
 大杉から変な生き物たちが降りて来る。隣の家の坊やはびっくりして腰を抜かしてしまう。
「ひいいい、なんか来たよ。なんか来た」
「大丈夫、大丈夫、こいつら優しいから、やっさしい」
 顔がいくつもあるカエルみたいなのが、隣の家の坊やの手を舐める。
「ひゃ、ひゃ、ひゃ〜!!!」
「大丈夫だって、そっとなでてやれ、やれ」
 隣の家の坊やは、そのカエルみたいなのの頭を恐る恐るなでる。カエルみたいなのは、気持ち良さそうに喉を鳴らす。グゲゲゲゲエ。
「な、平気だろ。へいき、へい」坊やは大きな羽の生えた羊みたいなのを抱いている。
 変な生き物たちと遊んでいると、あっと言う間に日が暮れた。辺りが暗くなるにつれて、うっすらと炎が現れだんだん濃くなっていく。それを囲むように鬼たちの姿も浮かびあがり、すっかり夜になる頃には、はっきりと姿を現した。
「おお、来たが来たか」赤い鬼が坊やに言う。
「うん、そっちのはなんだ?」青い鬼が隣の家の坊やを見る。
「オレの友達だ。なっ?」
「うん、そう」隣の家の坊やは小さい声で言う。
「あ、なんだって?」緑の鬼が耳に手を当てる。
「と、友達だす!」隣の家の坊やは恥ずかしくなって大きな声を上げる。
「だすってよ。おでたちみてえだな」青い鬼が笑う。
「んで、んで、さっそくやるべよ」緑の鬼が太鼓を叩く。ほいさ、えいさ、と赤い鬼と青い鬼が踊り出す。坊やも歌いながら踊りだす。周りの変な生き物たちも、めいめい動きだす。隣の家の坊やだけが、じっとしながらもじもじしてる。

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