その言葉を告げた瞬間、身震いするような興奮を感じた。いつもと同じ、無味乾燥な真実だ。それは同時に、私の心からの言葉だった。この人は美しい。
その日から、彼女がやってくる時間を心待ちにするようになった。いつ見ても彼女は美しい。姿を見ただけで心が弾む。真実を告げることでさえ、もう無意味なものではなかった。美しいと口にするたび、私の全身が、そうだ、あなたは美しいと叫んでいた。言いたいと望む言葉を口にし、相手が聞きたいと望む言葉を差し出す。それは幸せなことだった。
ふと、これがあの男が言っていたことだろうか、と気付いた。何も変えらない言葉であっても、感情次第で感じ方は変わる、気持ちがあればそこには何かしらの価値が生まれるということを教えてくれたのだろうか。
そんなことを考え始めると、また、全てを見透かしたように男が現れた。
「お前が最近考えていること、間違ってるぞ」
突然声がしたかと思うと、窓際に男が立っていた。部屋は暗かったが、すぐに誰だか分かった。
「もっともっと強い力だと分かるようなことだよ。分かるのはまだしばらく先になりそうだけどな」
男が足を踏み出すと、微かにぎっ、と音がした。そのまま近づいてくると、覗き込むように私を見てきた。どことなく面白がっているようだ。
「いや、まさかそんなことになるなんてなぁ。どうだ?最近は楽しくなったか?」
楽しく。
そう簡単には済ませられなかった。彼女を目にするだけで幸せだ。美しいと告げることにも喜びを感じる。それは間違いない。けれど、ただただ幸せなばかりでもない。むしろ、彼女への気持ちが募るほどに苦しさが増していく。
私の気持ちに気付いてもらう日など、来ないではないか。心の底から言った言葉であっても、私の気持ちは届かない。王妃にとって、それは決して言葉の意味以上には意味を持たない。そのことが苦しくて堪らない。どうにかして、気持ちを伝えたい。
「それは恋だな」ぼそりと男が呟いた。
「期待以上の効果が出るかもな」それだけ言うとくるりと背を向け、消えた。
やがて彼女は王妃になった。周囲は変わり、機嫌を取ろうとする人間が群がるようになったが、私にとって変化はほとんど無かった。相変わらず世界で一番美しい人を尋ねられ、あなただと教える。その真実を教えられることは嬉しい、けれども気持ちに気付いてもらえないことは苦しい。何も、変わらない。こんな毎日が永遠に続くのだろうと信じていた。あの子どもを目にするまでは。