小説

『爆弾』初瀬琴(『白雪姫』)

 月に雲がかかり、あたりは暗くなる。やがて抜けていき、再び窓からは光が差し込む。
 ようやく、顔を上げた時にはだいぶ長い時間が経っていた。
 男はにんまりと笑い、
「いいことを思いついた。でもな、黙っておこうかな。うん、その方がいいだろうな」と言った。
 何を言っているのか、さっぱりわからない。そもそも、この男に何ができるというのか。
「いや、真実の言葉は大きな力を持つということはたっぷりと目にすることができるからな。とりあえず一つだけ教えてやろう。持ち主が変わることになるよ。まあ、楽しみしておいてくれ。また寄るよ」
 ぽかんとしている私を残し、ひらりと手を振ると男は姿を消した。

 そうして私はここに運び込まれた。新しい持ち主は女だということしか知らない。一体、持ち主が変わることで何が起きるというのか。あの男にだまされているのではないだろうか。いや、あれは夢だったのかもしれない。
 そんなことをうじうじと考えていたが、新しい持ち主だという女が現れた瞬間、すべては吹き飛んだ。
 豊かな髪、滑らかな肌、整った目鼻。すべてに惹き付けられてやまない。
 私の中で何かが弾けた。それはぐんぐんと広がっていき、周りの景色も変えていった。それまで全てをくすませていた膜がとれていく。埃っぽく薄暗いこの部屋でさえ、きらきらと光り出す。
 かつり、と音がした。女がこちらに一歩近寄る。
 彼女だけに光が当たっているかのように周りの景色はすべて溶け、ただその姿だけが目に映る。
 どれだけ間近で見ても、彼女は本当に美しい。私はただただ釘付けになった。その間、彼女は品定めをするように私を眺めていた。ふうん、と小さく呟く。
 そして、口を開き、最初の問いかけをした。
 「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰」
 それは、誇らしげなほど自信に溢れた声だった。
 ここでも同じだ。答えは最初から定まっている。しかも、この女は自分でも答えを分かっている。
 けれども何かが違う。
「それはあなたです」

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