小説

『スーパー竹取物語』野村知之(『竹取物語』)

 すると出し抜けに、邸内へまろび入ってきた人群れがある。六人のむくつけき男だった。その内の一人が私に向かって、文挟みに手紙をつけて差し出してきた。
「宮中工芸課の技官、漢部内麿呂が申し上げます。ご注文の玉の枝を制作した件に関してですが、食う物も食わず、千日余にわたる努力は、たいへんなものでした。にもかかわらず、制作費をまだ頂いておりません。これを頂戴して、いたらぬ弟子どもに分けてやりたいのですが」
 冷や水を浴びせられて、びしょ濡れになったがごとき心地であった。私はあまりの事に口がきけず、ただ立ち尽くすばかりだった。そこへすかさずかぐや姫が、侍女に文を取るよう命じた。そうして手渡されたものを、打ち開くなり読み上げた。

『皇子様は千日間、私ども身分低い技官たちといっしょに、同じ隠れ家で生活して、みごとな玉の枝を制作なさって、褒美に官位もやろうとおっしゃいました。ところが一向にその約束が叶えられませぬ。そこで考えてみまするに、いずれ側室となるはずのかぐや姫様が、枝を要求なさっているのだと分かりましたので、こちらのお邸からお手当てをいただくのが筋であると存じまして』

 読み進むにつれて、事情に通じてゆく姫の顔色が、みるみる良くなるのが分かる。その面の上で潤んでいる、対になった満月が、今以って我が心を捕らえて離さぬ。実におかしな話だが、このさいの彼女が、今迄でいちばん美しく見えたように思う。
「本物の蓬莱の木だと思い込んでいましたわ。けれども、こんなあきれた作り事だと分かった以上、さっさとお返しください」と、姫が翁を呼びつけた。
「作らせた物とはっきり分かった以上、返却するのはたやすいことです」
 爺さんはそう答えて、うんうん頷いている。かぐや姫はすこぶる上機嫌で、先だっての私の歌にこう返歌した。

  まことかと聞きて見つれば言の葉を飾れる玉の枝にぞありける

 そうして枝もろともに突き返された。爺さんはといえば、あれほど私に加勢したにも関わらず、今はしっかと眼をねぶって、寝たふりを決め込んでいる。驚くやら見惚れるやら激怒するやらで、この辺りから覚えがない。気がつけばもう、四角い船に乗っていた。

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