「親の勧める結婚を一方的にお断りするのは、お気の毒と思って、わざと難題を出して、そちらからの辞退を期待しましたのに」
たいへんに恨めし気な口調である。彼女の面前には、私の玉の枝が箱から出され、むきだしのまま置いてあった。その容子が目に入った途端、竹を割ったが如くに気づいた。
難題を果たす必要などなかった。じつのところ題そのものが、こちらへの謎かけになっていたのだ。「玉の枝が欲しい」という、すこぶる易しい謎かけに。
そんなに回りくどい言い方をしなくとも良いのに、と思った。確かにあからさまに言ってしまっては、他の皇子に示しがつかなかったのやもしれぬ。とまれ、もっと早くに察してあげべきところでもあった。翁もそれを悟ったとみえて、隣室に閨の準備などし始めた。そうしてまるで自分が床入りでもするかのように、いそいそしながら聞いてくる。
「どんなところにこの玉の枝はございましたか。この世にはない美しさで、みごとなものですな」
かぐや姫はじっ、と俯いている。よろしい。わが玉の枝をお見せしよう、と袴の紐をしゅるりと解いた。その音を聞いて、姫の体がびくりとなった。この世にはない生き物でも見るような目つきで、私の手元を見つめている。だからこちらもびくりとなった。そんなに冷ややかな見方をしなくてもいいのに、と思った。
私はさも、その為に解いたかのように袴の紐を締め直した。やむなく、むきだしの未だ許されぬ玉の枝ではなく、既にむきだしてある玉の枝について話し始めた。そいつを手に入れんが為、いかなる苦境をくぐり抜けてきたのかを語った。
――語ったはずである。あの宝の枝を手にしたところを、身振り手振りを交えながら、たしかに話したはずなのだが、どうしてか玉のことだけ忘れている。それだけすっかり抜け落ちている。しかしながらいずれにせよ、作り話であるのには相違ない。それだけはしっかりと覚えている。
呉竹のよよの竹取野山にもさやはわびしき節をのみ見し
話を聞き終わった爺さんが、感嘆の吐息をついてそう詠んだ。
わが袂今日乾ければわびしさの千草の数も忘られぬべし
私はそう返歌して、かぐや姫を見た。この世ならぬほど美しき横顔と、なよやかなる黒髪と肢体とを、鑑賞しかつ玩味した。そうして爺さんの背後にある、すっかり調えられた夜具を見た。わが瞳にふたたび潤みが蘇り、しっぽりと濡れてゆくのが自分で分かる。