小説

『スーパー竹取物語』野村知之(『竹取物語』)

 すこぶる詩趣に富んでおる。こうとなれば一詩をものして、水中の月でも捕まえてやろうかと思った。そうした覚悟で眼をこらすと、空を埋め尽くした太陽のなかに、ただ一つだけ月がある。にわかに空と海が判然した。私は天に向けて手を突き出した。
 両の指を三日月形にして、ぴたりと合わせた真ん中に、白昼の満月を捕らえてやる。その様相はさながら瞳のようであり、まるで誰かと見つめ合っているかのようじゃ。
 姫がこちらを見てござる。どうしてか自分はそういう心持ちになった。あの瞳にも劣らぬ眼の持ち主を、私は一人存じている。その人は始終月を眺めていた。まだ朝ぼらけの竹藪の、笹に滴る露のごとき女であった。彼女が今にも我が手のひらに、こぼれ落ちるという寸前で、指の間をすり抜けていったのだ――。

 金玉だか銀玉だかの玉の枝を、持っていったまでは良かったのである。
「命がけの苦労をして、あの玉の枝を持ってきましたよ。かぐや姫に見せてください」
 竹取邸の玄関先で、私はそう言いながら、絢爛たる飾りの施された箱を、翁に向かって差し出した。竹取の爺さんは、しかつめらしい顔をして、何も言わずに受け取ると、それを持って奥へと入っていった。
 私はいったん気を緩めた。ほんらいならば緩むはずの顔つきが、逆しまに引き締まるのが分かる。そうしてもう一度、自分の姿を確かめた。丸裸ではなかったが、ほとんどそういう身なりである。それでも私は飽き足りずに、着物の端を自分で裂いていると、咎むるような大きな声が、奥の方から聞こえてきた。
「皇子が持ってきたこの玉の枝は、姫が注文した通り完璧なものです。文句をつける理由がありません。旅姿のまま自宅にも戻らず、こちらに来たのですよ。さっそく結婚して、皇子の妻におなりなさい」
 翁が姫を諭しているのであろう。しかし相手の返事はない。私は待ちきれなくなって、玄関から中庭へとまわった。そうして幾度か通してもらった事のある、庭に面したかぐや姫の部屋へ、縁側から遠慮なしに上がりこんだ。「こうなった以上、文句のあるはずはないですよね」
 案の定かぐや姫は、玉の枝を睨み付けたまま、私の方を見向きもしない。彼女に相対していた爺さんが、私の言葉に大きく頷きながら、こう援護してくれた。
「日本の国でも、まれな玉の枝です。今度こそは結婚をお断りできませんよ。皇子は人柄も申し分ない方ですし」
 ところへ姫が口を開いた。

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