それからしばらくして、シンデレラから長女と次女に縁談が持ち込まれた。知らされたのは、いずれの相手も同じような下級貴族であるということだけだった。互いに肖像画を送り、それで結婚が決まった。ささやかな結婚式が行われ、彼女はその時にそれぞれの相手を初めて見た。彼らは、あのシンデレラがどうやって探してきたのかと思うほど品がなく、不男で、鈍そうだった。彼女はめまいがする思いをひた隠し、無理やり笑顔を作って、娘たちの幸福を心から祈ったのだった。
完敗だと思った。シンデレラはかくも自分たちを正確に把握していたのだ。この縁談によって、長女や次女はこの程度なのだと宣告されたのだ。そして、その程度の娘たちをなんとか家庭に収めたいと必死に画策している彼女をあっさり追い越して、いとも簡単に相手を見つけて結婚までこぎつけさせた。しかも認めたくないが、娘ふたりともその箸にも棒にもかからない相手と実にお似合いなのである。結婚は喜ばしいことだと彼女は思った。まったく喜ばしいことであるが、そのようなことを考えてしまう彼女はひとり、もろ手を挙げてまで喜ぶことはできなかった。
世間では、酷い仕打ちを受けた異母姉たちによい縁談を紹介した麗しき孝行娘として、シンデレラはますます感動的、熱狂的に民衆に歓迎された。それはもう、崇拝といってもいいようなくらいで、未来に亘るまで語られて伝説になるのではないかと思われた。実際、それは嘘ではなくまさに事実であるのだから、そうで間違いない。世間はみな、シンデレラを褒めたたえるのに一生懸命で、彼女の心の中など誰も知ろうとしないし彼女も知らせようとしないのだから、それが正しい。そう、シンデレラはそれほどまでに聡明だったのだ。
年月が経つうちに、彼女の屋敷で長年働いていた使用人が高齢になって次々に辞めていった。すると、知らせてもいないのにシンデレラからの紹介で、時を待たずして使用人が新しく手配されてきた。彼らはいずれも技能的にも人柄的にも申し分のない非常に優れた人物であった。まさにシンデレラならではの気配りだと、彼女は改めて感心するのであった。シンデレラは出会うべくして王子様と出会い、そして結婚したのだ。身も心も聡明で美しいあのシンデレラがいつか伝説になるのもまた必然であろうと、老いた彼女は思うのであった。