彼女は、シンデレラを虐待しようと思ったことはなかった。意地悪で舞踏会に出席させなかったわけではない。靴をはきたいと言った時、決して止めなかった。しかし、彼女はこのような結果になったことに、激しい敗北感を味わわずにはいられなかった。それは、彼女自身にとってだけでなく、やはりあのような長女や次女を抱えている身としての敗北感であった。彼女は恐れていたのだ。美しさと華やかさと上品さと聡明さと素直さをすべて持ち合わせたシンデレラを。彼女の誤算は、シンデレラが思いもよらずしたたかであったことだった。いや、聡明であればあるだけしたたかでもあるはずなのに、それに気づかなかった。彼女はそれほどまでにシンデレラの虜になっていたのだ。そしてそのことを、シンデレラはおそらく知っていた。だから、これまでどのような仕打ちを受けても、じっと耐えてきたのだ。周囲を固め、チャンスを絶対に逃さないその聡明さをもって。
シンデレラの足がガラスの靴にきれいに収まったのを見た長女と次女は驚きのあまり口をぱくぱくさせるだけで、何も言えないようだった。シンデレラが遣いの者たちに連れられて豪華な馬車に乗って去っていってから、やっと、なぜあのシンデレラが、なぜ、と問いただした。彼女はその質問をあまりにも馬鹿馬鹿しく感じたので、
「さあ?おおかた魔法使いでも現れて、シンデレラにドレスや馬車を用意したのでしょう」
と投げやりになって答えると、浅はかにもふたりとも納得したようであった。離れたところで小間使いがほうっと小さく息を吐いたのを、彼女は聞き逃さなかった。
それからひと月後、王子様とシンデレラの結婚式は盛大に執り行われた。一家も招待されたが、夫だけが参列し、彼女たちは丁重に断って屋敷に閉じこもっていた。すでに世間では、シンデレラが彼女や異母姉たちに長年虐げられていたことが噂になっていた。その上、シンデレラが魔法使いのおかげで舞踏会に出席したと、まことしやかに信じられていた。そのような渦の中平気で式に参列するような神経を、彼女は持ち合わせていなかった。夫からはふたりが理想的な美男美女だと皆が褒めたたえていたと聞かされた。さもありなんと彼女は少し嬉しく、少し悲しく、少し寂しく感じたのだった。