小説

『シンデレラの継母』泉谷幸子(『シンデレラ』)

 指揮者が大きくタクトをふりワルツが流れる。ダンスが始まった。女たちに負けないくらいに着飾った男たちが次々に来て相手を申し込むが、長女と次女の前にはいつまでたっても誰も来なかった。彼女はある程度は覚悟していたが、それでも歯ぎしりする思いでその場にいた。長女と次女も不安そうな顔になっている。
 その時、扉が少し開かれ、光が差し込んできた。いや、光ではない。まだ幼い華奢な貴婦人だ。あまりに燦然と美しいので、退屈そうにしていた王子様も、女も男も長女も次女も彼女も、皆がそちらに注目する。あっと彼女は目を見張った。シンデレラだ!
 なぜシンデレラがここに?どうやって来たのか?あのドレスはどうしたのか?とめどなく疑問が湧いてくる。しかしその瞬間、ああ、と彼女は思いあたった。そうか、そうだったのか。
 あの小間使いだ。あの小間使いがすべて取り仕切ったに違いない。シンデレラのドレスの生地はなかなかのものであるにもかかわらず、仕立てはとても職人の手によるものとは思えなかった。主人のひとりであるシンデレラが、あろうことか自分のお古の服を着せられて自分と同じような仕事をさせられていることに、小間使いが身の置きどころのないほどの申し訳なさを感じていることを、彼女は知っていた。舞踏会にシンデレラが出席できないことを知った小間使いは、おそらく自分とほかの使用人からお金を集めて生地を買い、こっそり夜中にでもドレスを縫っていたのだろう。ほかの使用人たちもシンデレラに同情し、恩も感じているはずだから、快く有り金一切を出したのかもしれない。彼女は小間使いが最近あくびをかみ殺しているところをしばしば見かけた。ほかの使用人と話し込んでいるのも時々見かけた。あまり気にとめなかったが、そういうことなら合点がいく。シンデレラが舞踏会に遅れてきたのも、御者が彼女たちを送ってすぐに屋敷に戻り、シンデレラを乗せて再びやってきたからに違いない。舞踏会は2時までだから、おそらく12時にはシンデレラはここから抜け出し屋敷に戻り、明け方には当たり前の顔をして彼女たちを迎えるのだろう。
 ふと気づけば、シンデレラは王子様と踊っていた。それは誰が見てもため息が出るくらい優雅で美しい光景だった。信じられないことに、長女も次女も
「あのお美しい貴婦人はどちらの方かしら。なんて素敵なんでしょう」

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