日を経るにつれ、小間使いはやはりひとりではまったく足りないことがわかってきた。このままでは倒れてしまうかもしれないと危惧されるほどであった。しかし、やはり先立つものがない。そこで、娘たちに手伝いを少しずつさせればいいではないかと思いついた。3人で分担させればそれほどの労働ではない。娘たちにはまとめて家庭教師を1名つけているのだから、それくらいはさせてもいいだろう。そうすれば、あのものぐさな長女や次女も少しは気の利く娘になるかもしれない。そうだ、それがいい。
しかし、彼女の一計は長女や次女の激しい反発をかった。
「だってお母様、雑巾をしぼったりほうきを持ったりなんてしたら、所帯じみてしまって、貴族らしくなんていられないですもの。絶対嫌!」
「おうちで働いているところを窓越しにご近所に見られたりしたら恥ずかしいわ。わたしたちは嫁入り前の令嬢なのよ。絶対嫌!」
しかし、三女だけはこう答えた。
「はい、お母様。おうちをきれいにするためですもの、喜んでお手伝いいたします」
彼女はその真っすぐな瞳を見て、結局この子にしか任せられないのかと落胆した。が、もし長女や次女が手伝うと言ったとしても、まず満足のいくようなことはできないだろうとも思っていたので、一応表立って三人に打診したものの、手伝うなら三女だけのほうが実は望ましいのだから狙い通りだという思いもあった。
その日から三女はほぼ小間使いとして過ごすことになった。もともとの小間使いには、庭師と同様に心機一転のために服を新調してやっていたが、三女は雇っているわけではないので、小間使いが以前着ていた古着をあてがうことになった。8歳の三女にはぶかぶかだったが、仕方がない。長い髪は仕事のじゃまだからと肩下で彼女が切り、ひもで結うことになった。この全体的に薄汚れた姿を見て、長女と次女は本当の小間使いより貧相だと陰で言い、けらけら笑いあった。