小説

『音がきこえる』Mac(『トカトントン』太宰治)

「ああ、はい」
 なんとなくその波動は感じておりますゆえ。
「あと、二〇四号室は行った?」
「まだですけど」
 というか行く気はないんですけれどもね。
「あの部屋はやめとけ、なんかおかしい」
「おかしいとは?」
「誰かいる気配はするけど、誰か出てくる感じはしない。まあ、行ってみればわかるけど」
 行くなと言いながら何楽しそうなこと匂わせてるんでしょうか。これは行けと言ってるようなものです。
「じゃあ、なんかあったら」
「はい、どうもすみません」
 意味深な発言をして村尾さんは部屋へ戻っていきました。
 どうでしょう。どうしましょう。こうなったら行ってみましょうか。生憎手土産も一つ余ってますし。(いや、ホントは自分のぶんとして買ったやつなんですけれどもね)
 というわけで突撃二〇四号室です。
「ごめんくださーい」
 チャイムを鳴らしてみるものの、へんじがない。ただの空室のようです。
「すみませーん」
 もう一度チャイムを鳴らしてみますが、あいかわらず返事がありません。
 ああ、もしかして外出中なのでしょうか。そりゃ昼間ですしね。でももしかしたら誰かいるのでしょうか。ああ、気になる。こういう行動的な性格が私の売りだと思うんですよ。どうか皆さんよろしくお願いします。
「どなたかいらっしゃいませんかー?」
 小声で尋ねながら、ドアに耳を当ててみます。なにか音がするようなしないような。ということは誰かいるのでしょうか。でもなんか、どっちでもいいような気がしてきました。なぜこんなに他人の家事情に首をつっこもうとしてるんでしょうか。
「……帰ろ」
 とりあえず明日からビューティフルライフが始まるんです。気にしたら負けですね。そうですよ。とりあえずかりんとう食べよ。

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