小説

『音がきこえる』Mac(『トカトントン』太宰治)

「あたし村尾。なにかあったらなんでも言ってよ」
「ありがとうございます。なんだか心強いです」
 村尾さんかわいい。おかあさん、なんとか一人暮らしやっていけそうです。
「あ、これ。引っ越しのご挨拶ということで」
「お、何? これ」
「かりんとうです」
「おー。なに、好きなの?」
「オススメです」
「わざわざありがとね。地元どこ? 遠いの?」
「千葉県です」
「飛行機レベルじゃん。あれか、落花生の国だっけ?」
「そうですけど、なぜそこですか」
 ちなみに国内の七割ぐらいの落花生は我が千葉県が掌握しています。
「うちは隣の岡山県出身だから、気が向けば電車で実家帰れるんだよね」
「便利ですね」
「だから時々いないかもだけど、よろしくね」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
 会話ができるというのは、こうもありがたいものなのでしょうか。世が世ならお付き合いしたいです。
「じゃ、またね」
「はい、ありがとうございます」
 深々と頭を下げる。こういう気さくな隣人というのは嬉しいです。
「あ、そうそう」
「いたっ」
 またお辞儀した頭とドアとがぶつかりました。てめえらわざとか?
「あ、ごめん」
 謝ったので許します。お慈悲です。
「もう二〇一号室には挨拶いった?」
「はい、佐伯さんですよね」
「なんか変わってる奴だけど、いい人だから仲良くしてやってね」

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