「静かに! 旧ボスの失踪からもう一週間が経ったが。今日の昼間、皆が心配している旧ボスは見つかった。遺体としてな」
最初は旧ボスの帰還を遠吠えなどして歓喜しようとした空気が一気に静まり返る。告げられた真実は帰還の報告ではなく旧ボスの死の報告だった。
「森の泉の底に、お腹をパンパンにした状態で沈んでいたんだ。調べてみたら旧ボスのお腹に謎の縫い跡があって、お腹の中には石が大量に詰め込まれていたんだ」
その解剖結果に思わず絶句するオオカミ一同。「ひどい」や「むごすぎる」など群衆の中から声が上がり、あまりのひどさに失神しだす者もあらわれる始末。
「犯人と考えられるのは泉の近くに住んでやがるヤギの家族だと考えられる!」
旧ボス殺しの犯人として挙がったヤギの一家というのは、森の小さな小屋に住むヤギの一家のこと。母親と子ヤギが七匹、計八匹で住んでいる。
「あいつの母親は裁縫が上手だと聞いたからな。きっと旧ボスは危険を顧みず、あの母親とともに暮らす七匹の子ヤギを、俺たちの為に調達しようとしたが、母親に返り討ちにあってしまったと想定されるんだ」
辻褄の合う考察を終え、ヤギのボスは目を涙でうるうるとさせながら、オオカミの一族全員に向かって―
「俺たちが何をしたっていうんだ! 俺たちだって生きてるっていうのにいつもいつも悪者扱いされ殺されたり、仕返しを受ける! こちとら今や絶滅危惧種なんだぞ!」
熱く叫んだ。その言葉はオオカミ一匹一匹に響き、多くのオオカミが涙を流した。
「俺たちオオカミはなんでこんなにも皆から嫌われなきゃいけないんだ!!」
森から怒りと悲しみの遠吠えがこだまする。そうこう話をするうちに夜が明けて、太陽が山の間から見え始めた。
『オオカミが来たぞー!!』
「ん?」
突如聞こえる少年の声。その声は森の近くの村から聞こえるものだった。