小説

『ぼそぼそ』多田正太郎(芥川龍之介『カチカチ山』グリム兄弟『白雪姫』)

「独自の解釈によって新しい『浦島太郎』、『カチカチ山』、『舌切雀』を書き上げたのは、太宰治でした。ともよ」
「どうして独自って言えるのだよ。それに『カチカチ山』ったら、芥川だろうさ」
「あら、芥川さんも『カチカチ山』を書いているの。知らなかったわ」
「で、なんだけど」
「なによ。急に」
 ここで、ボソボソ話しは途切れた。
 その瞬間、一冊の本が、バサリと落ちた。
 本の題名が、「かちかち山」と読み取れた。
 そして、狸が走り去っていった。

 ホーホーとフクロウの鳴き声が聞きこえる。
 深い、深い、それは言葉で言い表すのが、ちょっと難しいかもしれない。そんな深い森の中であることを、男は感じていた。
 男は、本を開きながら、夢遊病者のような様子で、ペーシをめくり続けていた。
 その本の題名が、「グリム童話」と読み取れた。ホーホーとフクロウが・・。

 曲が流れている。快い旋律だ。
 男と女が、話している。
 女の言葉に、相槌をうちながら、夢の世界へと入り込む男。
 男が、美しい花畑に立っている。あたり一面、花で埋め尽くされている。
 その中に、七人の小人が現れた。片手にカンテラを持った小人。スコツプを肩に背負った小人。小さな木製の、車輪が2つ両脇についた、荷台を引く小人。それぞれの、ポーズだ。百円店にだって売っている。園芸店やホームセンターにも、売っている。結構、グロい色彩のものも多い。と男は思った。
 値段次第だ。まあ、人形のことはいい。
 どの小人も、三角帽子をかぶっており、先のとがった靴を履いているようだ。
 子供向けの童話の中で植えつけられた、愛らしさとは、全く別の7人の小人の素顔を、男は知っていたので、警戒心が体を駆け抜けた。

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