小説

『ぼそぼそ』多田正太郎(芥川龍之介『カチカチ山』グリム兄弟『白雪姫』)

 突然。流れていた曲の旋律が、底知れぬ不安を呼び起こすものに変わった。
 小人たちが、真っ黒なウサギとなり、やがて狸となり、さらに歯をむき出しにした、凶暴な獣に変わっていた。
 例えようのない美しい花畑が、みるみる枯れ果てた原野に変わっていった。
 ホーホーとフクロウが・・。

「芥川さんの、カチカチ山、読んだけど。昔話と随分違うわね」
「そうなのかい」
 「なによ! 読んでないの」
「読んでいるよ。昔話の方は、読んでないけど」
「あら、そうなの」
 「ウサギが大活躍するだろ」
「ええ。ウサギが狸を成敗するのよね」
「そうだよ」
 「童話時代のうす明りの中に、の始まりが、面白い表現よね」
「最後は、童話時代の明け方、で終わる」
「人間と動物が、当たり前のように会話をするのよね。だから童話時代なのね」
 「まお、そうなのだろうかねえ」
「そうよ。童話といったら物語よ。その物語が、人の心を動かす力だということ、言いたかったのじゃーないかしら。芥川さん」
「童話時代のうす明りの中に、かい?」
「文字の無かった時代は、伝承で伝えられ」
「伝承で、かちかち山がかい」
「文字が誕生すると、いつしか物語は、童話時代の明け方を迎えるのよ」
「なんだか、よく分からないね」
「芥川さんの、カチカチ山は、その記念碑なのよね」
「ますます分からないよ。だけど、ウサギのイメージが、全く違う」
 ここで、ボソボソ話しは途切れた。

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