小説

『ぼそぼそ』多田正太郎(芥川龍之介『カチカチ山』グリム兄弟『白雪姫』)

 ボソボソと話し声。
 男なのか女なのかもわからない。
 いやいやそれどころか何処なのかもわからないのだ。全てが混沌としていた。そんな世界。いや、云いようのない幻想めいた渦中に 漂う世界。二人ではなく、独白かも。
 とにかく、混沌として分からない。
 だがだが、である。多分二人であろう、ボソボソ話しの中身は、はっきり聞こえた。
「ある公募要領には、物語には、人の心を動かす力がある。と、書いていたわ」
「そんな力、あるわけないだろ!」
「文字の無かった時代、それは人々の口から口へと語り伝えられてきた。と」
「どうしてわかるのだ!」
「文字が生まれると、書物を通して広まる。とも」
「証明したの、いるのか!」
「映画が誕生し、ラジオ、テレビが発明され、インターネットが普及し・・。って」
「脈絡なし!」
「その形は多種多様になりましたが、物語の持つ力は、どのように表現されても変わることはありません。だってよ」
「ほんとかよ」
「それよりも形を変えることで、変わらないその本質を、より多くの視点から見つめることができるようになったのです。と、まで書いていたわ」
「したり顔、ムカつくなあ。そういうの」
「まだ続くのよ。物語に様々な角度から光を当て、色々な形でその力を伝えていきたいと思っています。と、ね」
「出来るものなら、やって、みろや!」
「誰もが知るおとぎ話や昔話、民話などをもとに創作した作品。を、なのよ」
「誰でも。そんな基準あるのか!」
「芥川龍之介はかつて『桃太郎』や『猿蟹合戦』を全く別の視点から描きました。つて」
「全く別の視点。なんだよ、それ」

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