小説

『トロフィー・ワイフ』村越呂美(『飯食わぬ女房』)

「なるほどね」
「だって、木原さん、言ってたじゃない。『俺は女の好みがうるさいから』って。彼の条件に合う人なら、きっとパーフェクトな女の人なんでしょうね」
 妻がうっとりとした顔でそう言った。
 確かに、木原が結婚相手として女性に求める条件は、かなり厳しいものだった。いつか、木原はこんなことを言っていた。
「誕生日にフレンチに連れて行ってくれとか、つきあってまだ少しなのに、ティファニーやらカルティエのアクセサリーが欲しいとか、そういう女って信じられないね。一気に冷めるよ」
 木原が女性について、並べ上げる条件を聞いていると、それを全部クリアする人間など決して実在しないだろうと思えてならなかった。
──ばくばく食べて、体重管理のできない女は嫌い。
──人の批判をする、偉そうな女は最低。
──卑屈で自信のない女は見るだけでぞっとする。
──肌が荒れている女と歯並びの悪い女は気持ち悪い。
──だらしない女とは一緒にいられない。
──神経質な女が側にいると気が休まらない。
──金遣いの荒い女は理解できない。
──貧乏くさい女がいると不愉快。
 などなど。木原の「女性論」は、私達仲間内の飲み会では、定番のトーク・テーマだった。そして誰かが、
「そんなことを言っているうちは、結婚は無理だな」
と言って、話が終わるのが常だった。
 私は仲間達に、メールで木原の結婚を知らせた。
「本当か?」
 最初に電話をしてきたのは、ドイツにいる友人だった。
「本当らしいぞ。今週中には入籍だと言っていた」
「なんと、まあ」
「これで俺達も、全員妻帯者になったな」

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