亀助は、恐る恐る振り返る。
おつるが――獣のように蹲り、じっと亀助を見上げている。
その唇が赤く艶々と光って、うっとりと微笑んでいる。
ほら、早く。あんたのその素敵な長ぁい脚で、あたしを運んでちょうだいな。
あたしは代わりにこの長ぁい腕で、邪魔なものをみんな薙ぎ払ってあげる。
おつるのお気に入りだという臙脂の着物から、白い腕が突き出している。
長く長く伸びたそれは、持て余されて上方に向かい、高く夜空を横切って急降下。まるで蜘蛛の足のように折れ曲がり、亀助の肩を捉えている。
あたしたち、お似合いねえ、お揃いねえ。そうよねえ、だって夫婦になるんだもの。
あたしは手。あんたは脚。あたしたち、二人でやっと一人前だわ。
亀助は己の脚を見下ろした。
地面に投げ出されたそれは、古木のようにごつごつとして節くれだっている。
亀助は生まれつき腰が高くすらりとした体格で、それをよく褒めそやされたものだったが、今やその自慢の長い脚は異様なまでに長く伸びて――遠く木々の暗闇の、その先まで視線を巡らせても爪先が見つからない。
ずるり。異形と化した重たい足を引き寄せると、かくりと折れ曲がる膝小僧は亀助の頭上高くにあり、木々をざわざわと鳴らした。
その姿はまるで――ぬらりと伸びた、蜘蛛の足。
よかったわねえ、これでどんどん先に進めるわねえ。
もっと、もっともっと、もっともっともっともっともっともっともっともっと!
あたしたち、ずうっと一緒に!
ずるり。
おつるが長い腕で這いずって、亀助の背中に取り付いた。
痛ってえ!髪を引っ張るなよ。
何だ、怪談は苦手か?でもおかげで、ぞおっとして目が覚めただろう?
ただでさえ寒いのにこれ以上はやめろって?そういうものかね。最近の連中の軟弱なことよ。
まあそんなに言うなら、次は怖くない話にしてやろう。