小説

『手長足長の子細を語りたること』木江恭(『妖怪・手長足長の伝承』 『童謡かごめかごめ』『賢者の贈り物(O.ヘンリー)』)

 しかしまあ、女房がお前を送ってやれと言ったのにも一理あってな。この天気の急変はおれたちのせいなのだ。
 女房は、おれに負ぶさった姿を見られるのをひどく恥ずかしがってな。せっせと雲をかき集めては、雨や雪や霧を起こして姿を隠そうとするのだ。何せ女房の腕は長いぞ。願えば願うだけ伸びるのだからな。
 それにひどい悋気持ちでな。自分で送って行けと言ったくせに、あんたを負ぶったときの殺気立った目といったら恐ろしいもんだった。ありゃあ、二三日は駄々を捏ねるか、手っ取り早くおれに平手を食らわせるかしないと収まらないだろうな。しかし出来れば平手は御免被りたい。あの長い手で打たれると、一撃で意識が飛ぶ。
 ああ、理不尽な話だろう?小さいころからさんざん甘やかされて育ったせいで、女房は我侭でな。まあ、昔はおれも気が短くて、ひどい喧嘩を繰り返したりもしたが、今ではもう慣れた。夫婦というのは、そういうものなのだろうな。
 さて、もうここいらでいいだろう。後は自分で歩いてくれ。
 そうそう、人間よ。おれに負われたことは秘密にしておいてくれ。おれたちには山の掟があって、人間を助けたことが知られると色々と拙いのだ。
 それに――アシナガがテナガ以外を負ぶったことを、あまり知られたくはないのでな。

 ここでニュース速報をお伝えします。
 本日未明、――県の――山にて、昨日から行方不明となっていた――大学の登山サークルに所属する大学生――さんが、無事救助されました。――さんは山小屋の前に倒れていたところを保護され、現在病院で手当てを受けていますが軽傷だということです。現場は悪天候のため捜索が難航していましたが、――さんは自力で山小屋まで辿りついたとのことです。
 繰り返します。本日未明、――県の――山にて――。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11